●5Gシステムのイノベーション

5Gの普及が始まっている。しかし、なかなか普及しないといった声を聴くことが多くなった。ご存知であろうが「5G」とは第5世代移動通信システムの略称で、IoTや携帯電話などのデータ通信に用いられる新世代通信規格である。Gとは「Generation」の頭文字をとったものであり4Gに次ぐ、移動体通信標準規格の新5世代目であることを示している。

出典:公開情報よりAZCA作成

PCG(Project Co-ordination Group)の配下にある3GPP(3rd Generation Partnership Project)によって5Gの技術標準が定義されたこの5Gは一面、4Gの拡大延長と見なされる。しかし、それ以上に5G通信システムには大きなイノベーションが内包されていると考えている。ここではそれを簡潔に説明したい。その為には移動体ネットワークの歴史を見る必要がある。

  • 1980年代に登場した第1世代のネットワークはアナログ回線で、自動車電話やショルダーフォンなどがビジネス向けに開発された。この頃の携帯電話は通話のみに使用され、メールやインターネットなどのデータ通信機能は無かった。
  • 1990年代にはデジタル回線化された2Gが登場し、初めて3kbps~30kbpsのデータ通信が可能となった。携帯電話からメールやインターネットが出来るようになる画期的変化となった。
  • 2000年代に普及した3Gでは通信速度が高速化し、最大約10Mbpsの通信が可能になった。写真や動画の送受信も可能な速度となり、通信サービス以外に多様なモバイルゲームや音楽配信、映像配信サービスも続々と登場してきた。
  • 2010年代初頭に普及した3.9~4GはiPhoneやAndroidなどのスマートフォンの爆発的な普及とともに50Mbps~1Gbpsの高速通信を実現し、動画投稿やマルチメディアサービスなどのリッチコンテンツサービスが拡大された。

このように移動体通信の世代は10年毎に10倍以上の性能の拡大を伴い交代してきた。2020年代は5Gとして10Mbps~20Gbpsの超高速通信を実現しようとしている。

上記高速化に加え、同時接続性や低遅延など5Gにはいくつかの革新性を持っている。それは移動体データ通信以外に、IoTや自動運転。自動工場などのM2M(マシン‐マシン通信)のデジタル基盤とすることを想定されているからである。そのために、5G免許は全国くまなくサービスをしなくてはならないという仕様ではなく、全国を約4,600のメッシュに区切り、任意のメッシュを獲得するという形になっている。

今後のデジタル社会は、インターネット上にある膨大なデータをロボットやAIなどが自動的に処理を行い、人の手を必要とする作業が大幅に低減されることになるだろう。ビッグデータとAI、IoTなどを活用して我が国の少子高齢化の問題の解決、経済的格差の是正など多くの社会問題を解決できると期待されている。5Gはまさにこのデジタル社会を実現する上で必要不可欠なテクノロジーになるという期待がある。然るに5Gは4Gに比べて、通信速度は20倍という面以外に、自動運転に有利な低通信遅延は10分の1、IoTに有利な同時接続数は10倍以上という機能が備わっている。加えて5Gコアという5G通信システム機能を具備することが予定されている。

このように高速・大容量によって得られるメリットがあるにも関わらず2021年になっても5Gの整備に時間がかかる要因は基地局の整備に多大な負荷がかかることが挙げられる。大容量通信を行うことで、ただでさえ、基地局の数が求められる上に、「ミリ波」という高い周波数帯域を利用する場合は電波レンジが100メートル前後しか無いとされ、基地局の間隔を短くし、多数を整備する必要が出てくる。3Gの基地局が数Km~十数kmであったのに比べ、大変な数の設備投資となる。

政府はいち早い整備に向けてはキャリアだけでなく、キャリアが整備しない地域には自営網としてのローカル5G免許を与え、民間企業や地域自治体が整備することを期待している。

●5Gにはローカル5Gとキャリア5Gが選択可能

キャリアによる5Gのネットワークは整備まで時間がかかるし、全国にはサポートされない。ローカル5Gであれば、自前で5Gネットワークを構築できるため、すぐに5G通信環境を自前で構築できる。ローカル5Gは高いセキュリティを持つ通信規格であり、局所的なネットワークであるため、外部のネットワークと完全に切り離して運用できる。また必要に応じてキャリア5Gとも通信できる。また4G Wi-Fiに比べカバー範囲が広範囲であり、接続機器数が数倍可能であり、インダストリー4.0で象徴されるスマートファクトリーやスマートシティでの利用が期待されている。ただし、国内ではPOCレベルの状況である。成功事例の増加により機器が量産され、安価に整備できる状況になることを期待している。(第2回に続く)

(AZCA, Inc. 奥村文隆/パートナー、東京代表)