第1回:パンデミック後の米国社会

毎年5月にリリースされていたMary Meeker氏の  ”インターネット トレンドレポート” は、IT業界関係者・新規事業開発担当者にとって必読レポートでしたが、2019年を最後に公に更新されることはなくなりました。そのレポートの流れを継ぐ資料のひとつと言えるのが、The New Consumer (BtoCビジネスをカバーする独立系メディア)、Coefficient Capital (BtoCスタートアップに注力したVC) の共著である ”コンシューマー・トレンド” です。原文はこちら https://newconsumer.com/trends/

パンデミックによって消費のあり方も大きく変容しています。この ”コンシューマー・トレンド 2022” レポートから浮かび上がってくる新しい消費者の姿・新しい社会の形を2回にわたってお送りしたいと思います。

第1回目は消費動向を核としたパンデミック発生後の米国社会の概況についてです。

2021年米国ではデルタ株が猛威をふるったわけですが、消費動向はいたって堅調で、その中でも米国小売店業界全体におけるオンラインコマースのシェアは、ロックダウン前のペースに戻りました。

一方でリテール関連で課題として顕在化したのが次の3点です。まずはグローバル経済を揺るがしているロジスティクスとサプライチェーンの混乱で、特に半導体の在庫不足は未だ様々な最終製品の製造販売に影響を及ぼしているのはご存知の通りです。またこれには米国の雇用状況が複雑に絡んでおり、後述しますが、フロントラインの労働者を含めて多くの米国市民がよりよいポジションを求めて現職を辞める事態が多発 、これがサプライチェーンが滞る大きな一因となっています。

次の課題は2022年になって一層進行しているインフレーションで注1)、最終製品や生産コストに相当反映されてきており、一般消費者・民間企業は今後の成り行きを注視している状況です。

注1)このレポートがリリースされたのは2021年12月中旬。

最後にミクロなポイントですが、オンライン広告フィーの高騰が、堅調な オンラインコマース成長の足かせとして影を落としています。ちなみにオンライン広告事業に関しては、そのプラットフォーマーFacebook (現Meta)自身もAppleの指針に大きく影響される点や当該事業に偏重したビジネスモデルのリスクなどの点から注2)、事業の一局偏重からの脱却を図っていたわけで、それがメタバースへ一気にシフトした一因として挙げられます。 オンラインコマースが増えていくにつれ、Facebook、Apple、Google、Amazonら大手IT企業の影響力は今後も無視できないでしょう。反トラスト法の行方にも要注目です。

注2)FacebookのSNSビジネスに対する外圧としては、フェイクニュースを野放しにしていたという批判、杜撰な個人情報管理へのクレームの他、今年に入って米議会で加速してきた反トラスト法(独禁法)改正の議論などが挙げられる。

また、パンデミック発生後の米国社会について特筆すべきなのが、労働者の意識、雇用側の体制など様々な面で働き方の変革が急速に進行中ということです。米国労働人口の実に88%がリモート勤務を希望しており、また、前述した通り、米国全土・あらゆる職種にわたって現職を自ら辞める現象が多発しているのが現状です。この現象は、The Great Resignation = 1920年代の大恐慌時代であるThe Great Depressionになぞらえて”総辞職時代”と命名されています。会社側もよりよい条件(より高い給与)を出さないと雇用を確保できない状態がエスカレートしてきており、インフレーションと相まって雇用と労働のバランス均衡が非常に難しくなってきています。

パンデミックを機会に多くの米国民が働き方を根幹から見つめ直しています。それ自体は悪いことではなく、社会に時に軋轢を産みながら、新しい時代に沿ったワークスタイル、オフィスの在り方に落ち着いていくのだと思います。(第2回に続く)