Corporate Venture Studio のすすめ ‐2/3‐
前回の記事では、日本企業がこれまで米国でのVC/CVCの活用を進めたにもかかわらず新規事業を生み出せなかった経緯をたどってみた。今回はCVC投資からなぜ新規事業がなかなか生まれないのか、その理由に迫ってみよう。
スタートアップの起業家精神と大企業とのギャップ
VC/CVC投資から大企業の新規事業がうまく育っていない理由をひとことで言うならば、スタートアップと大企業の間に事業成長に対する態度とプロセスの面で大きなギャップがある、ということだろう。そのため、せっかくVC/CVCが大企業に有用なスタートアップの情報を提供し、その情報から抽出、特定されたスタートアップとのコラボをしても、大企業はそのコラボをベースにした自社の新規事業をなかなか軌道に乗せる事が出来ない。
このギャップを整理していくつかにまとめると、次のようになるのではないかと思う(ここでは簡単のためにVC/CVCに投資し活用する事業会社を単にLPと呼び、VC/CVCの運用者をGPと呼ぶことにする)。
LPの成長戦略とGPの投資戦略とのアラインメント不足。 LPの成長のための大まかな戦略的方向性は決まっていても、対象分野が十分に練られ絞り込まれていない。そのため、投資の前に合意したはずのLPの戦略的意向とGPの投資戦略が一致しない。LP内でもGPから入ってきた案件を審議し、どの案件を取り上げるかの議論をする場で、既存事業との共食い(cannibalization) の心配や、他の社内のポリティックスなどによって、なかなか話がまとまらない。
GPが本当にLPに親身になって有用な情報を提供してくれるか? 質の良いスタートアップ投資をしてファイナンシャル・リターンの最大化を図るのが、本来のVCの目的であり、スタートアップの情報の提供はどうしても二次的なサービスになってしまうケースもある。LPとしてはVC/CVCを「使い倒す」ぐらいの貪欲さが無いと、なかなか望む情報も得られない場合がある。
LPサイドのスタートアップ育成のノウハウ欠如、経験不足。 一般にLPは既存事業に関しては、技術も組織も人材もそろっているので、これまで通り進めて行けばよいが、新規事業に関しては、社内の豊富なリソースがあったとしても、LPの既存事業における行動規範とスタートアップの起業家精神や行動規範とのギャップがあり、スタートアップ的な事業の開発、育成が、うまくいかない。つまり、社内にスタートアップを興し育てる経験を持った人材が欠如している。新規事業の開発は、不確実性の高い中で意思決定をし、前に進んで行かねばならないが、日常の定型業務をこなすことに慣れているLPにとっては、スタートアップ的に仕事を進めるのはなかなか難しい。
その結果、スタートアップとのオープンイノベーションが自社の新規事業展開に結び付かない。 VC/CVCを通して知り合ったスタートアップとのオープンイノベーション(技術ライセンス、共同開発、買収など)がうまくいかない。特に北米のスタートアップとのコラボを念頭に置いて、これらをさらに細かく見ると次の原因が考えられる。
LPとスタートアップ企業との意識のズレ
日本企業はR&D主体でプロセス志向、まず技術を知りたがる。そのうえでどう進めるかを考える。
現地のスタートアップはビジネス主体で目標志向。
日本の大企業はスタートアップに上からの目線で対応しようとする。
意思決定のスピードが遅い
他国の競合は責任者が来ていて話を聞いてその場で決断、ビジネスのスピードが全く違う。
現地への権限委譲がないため、日本本社にいちいちお伺いを立てている間に相手が興味を失う、あるいは他社に持っていかれる。
LP本社組織の経営資源が新しい形で有効活用されない
製品や既存事業との関係をどうとらえるか?
経営の両利き度は?その(探索と深化)葛藤の解決は?
本社組織に新しいケーパビリティをもたらしているか?
全社的な経営計画とどう連動させるか?
会社のコーポレートカルチャーの進化に役立っているか?
これらのことから、VC/CVCの活用によっていくら新規事業のシーズにアクセスが出来たとしても、日本の事業会社がこのシーズをベースに自社の新規事業を創出し軌道に乗せていくのがいかに困難か、とういことが見て取れる。
次回はこのギャップを埋める手立てとしてのCorporate Venture Studio (コーポレート・ベンチャースタジオ)について概要を解説し、その効果を説明する。ぜひお楽しみに。
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