第1回:事業として得られるもの=事業リターン

大企業/中堅企業(大企業)が、Startupとのオープン・イノベーション(OI)を実行する際、関係構築の一環として、相手方のStartupに対して出資をするケースが多くみられる。(図参照)その背景として、Startup側の資金需要が高く、VCからの出資だけでは十分な資金が得られない状況等が考えられる。だが、大企業側は、どのような背景(理由)で出資を考えるのであろうか。

出典: Diamond Online「大企業からベンチャー企業への投資が急増している理由」

大企業側の理由は当然様々であろうが、個別に聞いてみると、必ずしも明確な理由が意識されていないケースや、相手側のStartupから求められたから、というケースが結構多いように見受けられる。更にもう一つの側面として、大企業側が出資は重要なOI関連のアクションと捉えていても、その重要アクションに伴うゲイン(得られるもの)を明確に意識していない状況が多い。そこで、出資という重要アクションに関する意味を整理してみたい。

大企業側は、何を求めてStartupに出資するのか。まず最も一般的な意味は、「そのStartupとの事業提携が双方にとって非常に重要な提携」であること示すためである。その提携が、双方の事業の立ち上げや新製品の開発等にとって非常に重要な役割を担っている場合、その関係は「戦略的提携」(Strategic Alliance)と呼ばれる。大企業とStartup間で様々な提携関係が生まれるが、それらの中で特に重要な提携を指し、通常双方にとって非常に重要というケースが多い。(勿論、Startupにとっては、通常、大企業との提携は非常に重要であり、殆どの大企業との提携は「戦略的提携」と位置付けられえるものではあるが。)

この戦略的提携に関しては、もう一つ別の側面がある。それは、双方が本気でその提携関係を成功させようと努力すること、つまり提携関係に対するコミットこそが非常に重要であるが、この関係の維持・運用に対するコミットを引き出す上で、大企業側からのStartupに対する投資が重要な役割を果たすということである。大企業自身がその提携の重要性を意識すると同時に、Startup側からも大企業側の「本気度」を図るバロメータとなる。そうしてお互いの関係が強化され、その提携の成功確率が上がることになる訳である。

実際、米国では「戦略的提携」という関係は、大企業からStartupに対する投資を含んでいるケースが多い。(場合によっては、投資を含んでいなければ、それは戦略的提携と呼ぶべきではない、という議論もあるくらいである。)大企業側からの投資の有無は、Startup側にとって、大企業のその関係に対するコミットの程度(及び大企業にとってのその提携の戦略的重要性)を図るバロメータとなる。その理由は、米国的感覚から言うと、投資した以上大企業側がそのStartupの成功の為最大限努力する、と考えるからである。

提携関係構築の際、大企業側からは、相手側Startupに関する様々な情報を入手し、多角的に評価することが必要になる。通常この種の提携は、Startup側の持つ技術や製品に関する部分が多くなるが、加えて、Startup側の詳細情報を入手することにより、当該Startupの経営上の成功可能性を評価する、といったステップも含まれてくる。この場合、関係構築上、Startupに対する投資が含まれていれば、通常、その経営情報を得ることによる多角的な評価やDue Diligenceを行う事ができ、 Startupに関するより深い理解を得ることになる。

このように、投資検討を行えれば、提携相手のStartupに関する、より詳細な情報を収集できるという面も重要である。提携相手がStartupであること自体、リスクの大きさを意味している。提携に伴う検討において、そのStartup自体の事業成功の可能性を詳細検討することができれば、提携関係に関し、より自信を持った判断ができ、結果がポジティブな場合、その提携関係によりコミットできることになる。勿論、評価結果が思わしくない場合は、これまた自信をもって、関係構築を断念しなければならないが。(なお、出資の意図がないのに、詳細情報だけ取得のために出資検討を求めることは、道義的な面からお勧めできない。)

ここまで述べてきた事項は、事業発展のために意味ある提携を実現する上で、手段としての投資の有効性を示すものである。事業会社として、事業上の有力な提携を実現してイノベーションの取込みや確立を目指すことは、当然、第一義的な新規事業の確立や既存事業の強化というOIの趣旨から見て、最重要であることは、言うまでもないことである。この位置づけからは、Startupに対する出資は、事業上のゲイン、つまり戦略的ゲインを得ることがその主要目的ということができる。

これに対し、もう一つ重要な視点がある。それは、出資をすることにより、財務的なリターンを追求するという視点である。投資である以上財務的リターンは重要、という一般的理解がある程度あるのは普通であるが、ともすると、投資による財務的リターンは、出てくればいいという程度で、それが必須であるとする立場は、日本企業としては一般的にあまり強くはない。実際、出資に伴う財務的リターンの追求は、自社にとって(最)重要ではない、という発言を聞くことが多いように感じる。

このような姿勢は、多くの日本企業に見られるものであるが、米国企業とは際立って異なっている。この考え方は、優れたボトムラインの数値を求める経営の基本に照らして、大局的に見て正しいものではないと思われる。それは何故か、大企業によるStartup投資に対する財務的リターン追求をどのように考えるべきか、非常に重要な視点である。次回と次々回はこういった視点から、Startup投資における財務的リターンの追求のあり方について考えてみたい。(第2回に続く)