●5GNSA(ノンスタンドアロン)と5GSA(スタンドアロン)

5Gを4G網で利用して、いち早く利用できるようにするために、5Gの通信形態にはいくつかのパターンがある。大きく分けると4G網を中心にした5GNSA(ノンスタンドアロン)と5G網を中心とした5GSA(スタンドアロン)である。

出典:公開情報よりAZCA作成

5GNSAでは4GLTEのネットワークに5Gの基地局であるNRが接続され、5G通信が提供される。4GのコアであるEPC(Evolved Packet Core)が5G通信を4G網とハイブリッドでサービスすることを実現するという仕組みだ。しかしこの形態では5Gの理論値の性能は決して発揮されない。期待されるのは5GCを活用可能となる5GSAである。5GSAでは全体の通信は5GC(5Gコア)が見ることによって、4G網もサポートするというネットワーク像である。そして5GSAにおいては5Gの最大能力が発揮されることに加えて5GCに備わる多様な5Gシステムを活用できることになる。

世界的に5Gサービスは2019年前後に始まっているが、5GSAが現時点でサービスをされている処はほぼない。5Gのユーザーの増加、ローカル5Gの増大による5G基地局の拡大と55Gコアのソフトウエアの開発も進んでいることから、筆者の予想では最速で2023年以降には5GSAが主流として利用開始されるのではないかと見ている。現在においても5Gのメリットは、電波利用の効率の向上や体感速度の向上など多い。しかし、5Gの真のメリットは、5GCシステムを活用した、これまでにない新たなサービスやビジネスを比較的容易に展開できることになると思われる。

●本当に日本は5G整備に遅れているのか?

2018年の韓国平昌の冬のオリンピックにて5Gを利用した中継が注目された。その後、韓国では移動体向けには2019年4月から一斉に5Gサービスを開始し、8か月で加入者が350万人を超えるという勢いで5G加入者が伸びてきた。しかし、それは一説には世界でも先駆けて5Gを開始する話題性を狙ったものであり、実質的には2020年後半でも「なかなか5Gがつながらない」[1]という評判があると言われる。同時期にEUでも米国でも5G商用サービスを開始して来ている。米国は、2018年のサービス開始当初はFWA(Fixed Wireless Access)と呼ばれる固定ブロードバンド回線の代替手段として固定で5Gを利用するサービスを提供し、その後5G対応スマートフォンを発売はしているものの、まだ爆発的な普及には至っていない状況である。

実際に5Gの特長の一つである最大20Gbpsの速度は出ているのかというと、公開情報では世界最速の米国で1.8Gbpsであり、中国では1.6 Gbps、韓国でさえ1.1Gbps,英国に至っては0.6 Gbpsと、4Gとあまり変わらない状況のようだ。[2]

出典:総務省 通信白書2020 OPENSIGNAL 5G正式商用速率实测(速度)

日本は世界に1年周期遅れて2020年春に5Gを開始している。先日5Gサービスを展開したドコモにおいては、「瞬速5G」と称する、3.7GHzと4.5GHz、そして28GHzという3つの新しい周波数帯域を用いることで、理論値4.2Gbpsという 5Gの「高速・大容量」という特徴をフルに発揮できる通信サービスを開始している。まだカバー領域が限定されるものの、ネット上の動画では実測値で最速4Gbps出ているケースがある。米国ベライゾンの1.8Gbpsの倍以上のパフォーマンスを発揮しているのだ。ミリ波を活用したこの数値を見る限り、現時点で世界に大幅に遅れていると言えるのであろうか。

加えて、楽天モバイルは世界初と言われているシステム全体を仮想化した商用サービスのロンチに成功しており、中国製の機器の排除を謳う米国、豪州で注目を集めている。さらに、様々な産業で5Gへの期待が高まっていることなどから、国内通信事業者は当初の基地局展開予定を前倒する計画に変更している。ドコモでは当初の計画を大幅に見直し、2021年6月までに1万局、そして2022年3月末までに2万局の基地局を設置し、2023年度中に人工カバー率97%を達成する計画にしている。また、ソフトバンクにおいても2022年3月末までに人口カバー率90%を達成できるように基地局展開を行う計画であるとされ、急速なキャッチアップが期待できる。(第3回に続く)

[1] 5G普及率1位の韓国、iPhone12の1次発売国から除外=ネット「世界初だけど実際は…」 (recordchina.co.jp)
[2] 5Gサービス開始から1年半、海外ではエリアはどこまで広がっているのか? | モバイルトレンドラボ (mobiletrendlab.com)

(AZCA, Inc. 奥村文隆/パートナー、東京代表)