第3回:米国5Gの競争要因の変化

周波数帯域の割り当ても追加している。5Gは帯域を大量に必要とするため、米国政府は2年から3年先の帯域不足を回避しようと、携帯事業者向けに大量の周波数割り当てを進めてきた。AT&TとVerizonは、2021年末までに、Cバンドで使用する80M帯域幅のうち、約半分の利用を開始する計画だった。Verizonも2022年3月には1億人のユーザーに対して5Gをカバーすべく計画を進めていた。2022年は1億6000万契約と首位となったT-mobileを、1億人契約を持つAT&T、1億5000万契約のVerizonがより低いミッドレンジである4200MhzCバンドへの投資で巻き返すことが出来るかどうかを注目されていた。ミッドレンジということから、速度もある程度早く、電波到達距離もハイバンドより期待できるキャリアの競争には重要な帯域だ。

しかし、思わぬストップがかかった。米主要航空会社のCEOらが5Gの新サービスにより「壊滅的な」航空危機が迫っていると警告していたことを受けて米連邦航空局(FAA)は、5Gの電波干渉が電波高度計など航空機の精密機器に影響を与え、視界が悪い状況下の運航に支障をきたす可能性があると警告を発したのだ。

また、米下院運輸・インフラ委員会、航空小委員会も17日、米連邦航空局(FAA)が5Gを安全に展開できると判断するまでサービスの展開を延期するよう要請外していた。「5Gの導入という称賛すべき目標が混乱なく航空分野と共存できるよう、FAAと航空会社、航空機メーカー、通信業界、空港が協力して、長期的な対策を実施するスケジュールに取り組むべき時だ」[1]とした。バイデン米国大統領も「5Gの拡大とインターネットサービスの競争促進は私の重要な優先事項であり、明日は正しい方向への大きな一歩となるだろう」と述べている。これを受けてAT&TとVerizonは2022年1月に開始を予定していた5Gのミッドレンジ新サービスについて解決策が出るまで、空港近くの約500の基地局の一時的な延期を余儀なくされた。

米国の5Gの特長はサービスに「高速5Gサービス」と「低速(ローバンド)5Gサービス」「中速(ミドルレンジ)5Gサービス」の3つがあることだ。

2021年は低速(ローバンド)5GサービスでT‐mobileが圧勝した。その理由としては2020年のT-mobileによるSprint買収で、両社の合併により互いのネットワークへのアクセスが可能となったため、5G基地局の獲得が出来たこと、及びAT&T、Verizonがハイバンドを中心に高速サービスを都市中心に行ってきたことに対して、T-mobileはハイバンドの28Ghzも持ち合わせつつ、主に最初から広範囲のアクセスを提供するローバンド帯域の600MHz周波数を選択したことだ。彼らは郊外や農村地域に提供するために6000都市でローバンドを中心に展開し、アメリカ全土のカバー75%に達したとしている。郊外では他の2社が、50mbps程度であることに比べ、5Gとしては低速であるが200mbps以上出ていた。いわば4Gより低速な5Gサービスが広範囲のアクセスという要因で勝った。

[1] 米通信2社、航空業界などの要請受け5G拡大を延期(米国) | ビジネス短信 – ジェトロ (jetro.go.jp)

さらにローバンドサービスでも格安の月額15$からの5G契約を提供したことが挙げられる。低価格で好評な“T-Mobile Connect”サービスは、無制限通話に加えて、全国5Gネットワークへのアクセスを含む2GBまで、月額25$では5GBに増量される5G格安プランを提供している。他の2社が60~80$であったのに対して格安になっており、どうせ契約するなら5Gも使えるサービスを選ぶという心理をうまくついたといえる。

総括すると2021年はコロナ禍でのローバンドにおいての価格及びアクセサビリティの競争であった。ミッドレンジサービスが今後の競争を左右することは疑いない。(第4回に続く)

(AZCA, Inc. 奥村文隆/パートナー、東京代表)